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心理職ユニオンは、2021年9月1日から2021年10月31日にかけて、東京都スクールカウンセラーの労働実態 についてのアンケート調査を行いました(東京都スクールカウンセラーに対しこのような調査が実施されたのは初めてのことです)。

今回の調査では、702通の回答を得ることができました。

東京都スクールカウンセラー
労働実態調査報告

平成7年(1995年)に東京都公立学校においてスクールカウンセラーの配置が始まってから、27年の歳月が経過しました。当初は研究委託事業として開始したスクールカウンセラーの配置も、現在では当たり前に都内の公立学校に配置され、職種として定着しました。心理の専門家が学校で職業として支援に携わる機会を提供して下さり、東京都教育委員会をはじめ学校関係者の皆さまに、深く感謝申し上げます。

このように東京都教育委員会や学校関係者の皆さまのご尽力により、スクールカウンセラーが職種として定着したことは喜ばしいことですが、非常勤で不安定な雇用条件であることから、労働実態は決して十分に恵まれたものとは言えず、学校現場で安心して専門性を発揮することに困難を感じるスクールカウンセラーは少なくないと推測されていました。

しかしながら、スクールカウンセラーが安心して専門性を発揮し、学校でより多くの貢献ができる労働環境とはいかなるものなのか、調査・検討が行われることはありませんでした。

そこで、私たち心理職ユニオンは東京都スクールカウンセラーの労働実態を明らかにし、等閑にされてきた課題の改善を求めるべく調査を実施しました。早急な処遇の検討と改善が求められます。

目次

目次

調査の概要    

 1調査の目的  

 2調査期間

 3方法

 4調査対象

 5調査内容

 

結果の概要   

 1基本属性     

  (1)性別

  (2)年齢

  (3)資格

  (4)資格取得後の臨床経験年数

  (5)都SCの臨床経験

  (6)勤務校数

  (7)都SC以外の兼業の有無

  (8)兼業先の数

  (9)兼業の領域

 2都SCのストレスについて   

  (1)ストレスを感じている割合

  (2)ストレス要因

   (ア)時間外の無償労働(残業について・休憩の有無・持ち帰り仕事)

   (イ)雇用の不安定さ(契約更新の不安・会計年度任用とSC・配置校数減)

   (ウ)社会保障が無いこと(結核健診の費用負担・自由記述より)

   (エ)教職員・管理職との関係(理不尽な要求の有無・相談先・解決の有無・

管理職への相談の有無・管理職に相談できない理由)

   (オ)相談室の設備(自由記述より)

   (カ)休暇制度(連絡会出席のための調整について・妊娠、出産、子育てについて)

   3都SCの仕事の満足度について 

     (1)やりがいを感じている割合

     (2)SCの仕事の専門性

   (3)都SCの収入

   (4)経験加算について

    4都SCの勤務形態の理想   

 

都SCの労働条件改善に向けてのポイント 

   1【時間外の無償労働について改善】  

   2【SC相談窓口の設置】   

   3【雇用の安定化(会計年度任用職員の問題の改善)】  

  (1)雇用の安定、無期雇用

  (2)会計年度任用とSC評価の問題・SCの人材育成の視点                     

  (ア)校長評価の評価基準が不明確であり、人材育成の視点が欠けていること

  (イ)心理職の専門性は評価されにくい

  (ウ)管理職の評価のみで採用・不採用が決定されること

  (3)合否通知・配置校通知の時期の改善

   4【社会保障】  

  (1)健診の無料化

  (2)連絡会出席のための連絡会の在り方について

  (3)ライフイベントと雇用

   5【現場のSCの声を今後のスクールカウンセラー活用事業に反映する】

※掲載している自由記述については、個人が特定されないように若干の編集を加えていますが、

趣旨や内容等を変えたものではありません。

調査の概要

調 査 の 概 要

1 調査の目的

本調査は、東京都の公立学校で働くスクールカウンセラー(以下、都SC)の働きかたについて調査し、勤務の実態を明らかにしながら心理職の社会的地位の向上と処遇の改善を進めることを目的に実施した。

 

2 調査時期

2021年9月1日~10月末日。

 

3 方法 

東京都の全公立小・中・高等学校のスクールカウンセラーへ郵送にて依頼。すべて郵送で回収。

 

4 調査対象    

東京都公立学校スクールカウンセラー1514名を対象にアンケート調査を依頼し、SC全体の46%にあたる702通の回答が得られた。

 

5 調査内容    

東京都公立学校スクールカウンセラーの勤務実態について、ストレスや残業の有無、理想の勤務形態などの質問への回答を求めた。また、フェイス項目として、性別や都SCとしての勤務年数、兼業の有無などを尋ねた。

結果 の 概 要

1 今回のアンケートに回答した都SCの基本属性

(1)性別

都の性別は女性が79%で男性が20%であり女性が圧倒的に多い。

 

(2)年齢

35~39歳が17%、45~49歳が16%、40~44歳が13%、50~54歳が13%、30~34歳が12%、55~59歳が11%、60~64歳が8%、65歳以上が7%、20~29歳は3%で20代が少なく、30代~50代が多数を占める(図1)。

図1 都SCの年齢分布

スクリーンショット 2022-06-27 16.18.36.png

(3)資格

702人中672人が「臨床心理士」資格を有し、643人が「公認心理師」資格を有している。その他、大学教授、精神保健福祉士、特別支援教育士などの回答があった。

 

 

(4)資格取得後の臨床経験年数

10~15年未満が28%、5~10年未満が22%、15~20年未満が17%、1~5年未満が13%、20~25年未満が11%、25~30年未満が4%、30~35年未満が2%、35~40年未満が1%、

1年未満が1%で10~20年未満の都SCが約半数を占める(図2)。

図2 資格取得後の臨床経験年数

図2.png
都SCの基本属性

(5)都SCの臨床経験

5~10年未満が37%、1~5年未満が24%、10~15年未満が17%、15~20年未満が10%で都SC経験年数10年未満の割合が68%を占める(図3)

図3 都SCの経験年数

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(6)勤務校数

「1校」が51%、「2校」が29%、「3校」が20%で1校勤務が最も多い。

(7)都SC以外の兼業の有無

93%が「している」、6%が「していない」と回答。多くの都SCが他の仕事と掛け持ちをしている。

 

(8)兼業先の数

掛け持ちをしていると回答した都SCの37%が「一か所」、32%が「二か所」、31%が「三か所以上」で掛け持ちをしていると回答。

 

(9)兼業の領域

掛け持ちをしていると回答した都SCの他の仕事の領域としては、「教育」が最も多く次に「医療」「福祉」が続いた。(図4)

図4 都SCの他の職場の領域(複数選択)

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2 都SCのストレスについて
 

(1)ストレスを感じている割合

「職場においてストレスとなる要因があるか」という問いに対し、87%がストレス要因があると回答(図5)。厚生労働省による令和2年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安やストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は 54.2%である。

今回の調査結果から、都SCは、職場においてストレスを感じている割合がかなり高い状態にあると言える。

都SCのストレスについて

 図5 職場においてストレスとなる要因があるか

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(2)ストレス要因 

職場においてストレスとなる要因があると回答した都SCのうち、ストレスとなる要因として多く選ばれたのは、「時間外の無償労働」、「雇用の不安定さ」、「社会保障がないこと」など労働環境に関する要因である(図6)。

図 6 職場においてストレスとなる要因(複数選択)

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(ア)時間外の無償労働

 ストレスとなる要因がある、と回答した都SCが選んだストレス要因として最も多く選ばれたのは「時間外の無償労働」である。

「都SCの勤務で残業をしているか」という問いに対し87%が残業をしていると回答(図7)。

図7 都SCの勤務で残業をしているか

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残業をしていると回答した都SCのうち、90%が残業の調整は「できていない」と回答(図8)

図8 都SCの勤務で残業の調整ができているか

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一回の勤務における職場での残業時間を問う設問に対しては、「1~2時間未満」が52%、「1時間未満」が22%、「2~3時間」が17%と回答した(図9)。

図9 一回の勤務における残業時間

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休憩時間はとれているか、という問いに「とれていない」という回答が多い(図10)。

*複数校を同時に勤務している場合は、1校目をA、2校目をB、3校目をCとして、それぞれの勤務校について回答を求めた。

図10 休憩時間はとれているか

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持ち帰りの仕事をしているか、という問いには約半数ずつの回答(図11)。

*図10と同じように、複数校を同時に勤務している場合は、1校目をA、2校目をB、

3校目をCとして、それぞれの勤務校について回答を求めた。

図11 持ち帰り仕事はしているか

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(イ)雇用の不安定さ

ストレスとなる要因がある、と回答した都SCが選んだストレス要因として1番目に多く選ばれたのは「雇用の不安定さ」である。

この先、雇用契約が意に反して更新されなくなる可能性についてどのように感じているか、という問いに対し69%が「不安に感じる」、22%が「やや不安に感じる」、 5%が「あまり不安に感じない」、4%が「どちらともいえない」と回答した(図12)。

図12 この先雇用契約が更新されなくなる可能性について

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都SCの次年度の採用の合否は校長評価によって決定されるが、会計年度任用職員という雇用形態は、都SCの業務内容や働き方に合う制度だと思うか、という問いに30%が「どちらともいえない」、28%が「あまりそう思わない」、18%が「まったくそう思わない」、20%が「ややそう思う」、3%が「とてもそう思う」と回答(図13)。

図13  制度が業務内容や働き方に合っているか

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自由記述より1

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希望していないのに配置校数を減らされたことや、満期6年前に異動させられたことなどはありますか、という問いに対し13%が「ある」86%が「ない」と回答(表1)。

表1  配置校数を減らされたことや満期6年前に異動させられたことがあるか

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特に、配置校数を減らさたことや、今後減らされることに関しての不安を訴える多くの意見が自由記述欄記載されていた。

自由記述より2

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(ウ)社会保障がないこと

ストレスとなる要因がある、と回答した都SCが選んだストレス要因として三番目に多く選ばれたのは「社会保障がないこと」である。

勤務校を管轄する自治体(教育委員会)の費用負担によって健康診断を受けているかを問う質問に対し、76%が自治体負担では受けていないと回答した。(図14)

図14 健康診断費用を自治体負担で受けているか

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社会保障に関し、自由記述欄に不安を訴える多くの意見が記載されていた。

自由記述より3

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(エ)教職員・管理職との関係

ストレスとなる要因がある、と回答した都SCが選んだストレス要因として「教職員・管理職との関係」は四番目に多く選ばれた。

職場で理不尽な要求、不快な対応、ハラスメントなどを受けたと感じたことはあるか、という問いに対し47%が職場で理不尽な要求をされたことがある、52%が職場で理不尽な要求をされたことはない、と回答した(表2)

表2  理不尽な要求をされたことがあるか

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自由記述より4

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理不尽な要求をされたことがあると回答した都SCに、それらの対応を受けたと感じたことについて、どのような対応をとったか、という問いに「家族・友人などに相談した」、「誰にも相談しなかった」が多く選ばれた(図15)。

図15 理不尽な要求への対応(複数選択)

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理不尽な要求をされたときに誰かに相談したと回答した都SCに対し、相談の結果それらの問題は解決したか、という問いに「解決した」が15%、「解決しなかった」が40%、「どちらともいえない」が39%と回答した(図16)。

図16 相談の結果、解決したか

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理不尽な要求をされたときに、誰かに相談したと回答した都SCに対し、その勤務校でそれらの対応を受けたとき、管理職には気軽に相談できたか、という問いに「できなかった」が76%、「できた」が20%と回答した(図17)

図17 管理職に気軽に相談できたか

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上記の設問で、管理職への相談をためらった要因として考えられるものはどのようなものか、という問いに対し「その他(自由記述)」、「管理職からの評価に悪い影響を及ぼさないか気になる」、「ハラスメントや理不尽な要求について、管理職の問題意識が低いから」が多く選ばれた(図18)。なお、「その他(自由記述)」については「管理職によるパワハラのため管理職への相談をためらった」という内容が多くを占めた。

図18 管理職への相談をためらった理由

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(オ)相談室の設備

 ストレスとなる要因がある、と回答した都SCが選んだストレス要因として「相談室の設備」は五番目に多く選ばれた。この項目に関し、自由記述欄へ多くの記載があった。

自由記述より5

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(カ)休暇制度

ストレスとなる要因がある、と回答した都SCが選んだストレス要因として六番目に多く選ばれたのは「休暇制度」である。

東京都の連絡会と各自治体の連絡会出席のために、本来の他の職場の勤務を休んだことはあるか、という問いに対し「はい」が58%、「いいえ」が41%と回答した。(図19)。 

図19 連絡会のために他の勤務を休んだか

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東京都の連絡会と各自治体の連絡会出席のために本来の他の職場の勤務を休んだことがあると回答したSCが、勤務をどのように調整したかについては、「年休などで対応し収入は確保されている」が最も多く、次に「勤務日の変更をする」「欠勤」が多かった。(図20)。

図20 連絡会のための休みをどう調整したか

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妊娠出産子育ては、働き続ける上で障害になると思いますか、という問いに対し合計75%が「とてもそう思う」、「ややそう思う」と回答(図21)。

会計年度任用職員制度導入後、産休はできたが育児休暇はない。

図21 妊娠出産子育ては働き続ける上で障害になるか

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3 都SCの仕事の満足度について

都SCの仕事の満足度について

(1)やりがいを感じている割合

「あなたは仕事へのやりがいをどの程度感じていますか」という問いに対し、52%が「とても感じる」、40%が「やや感じる」、4%が「どちらともいえない」、2%が「あまり感じていない」、「全く感じていない」は0%であった(図22)。

内閣府による平成21年度 インターネット等による少子化施策の点検・評価のための利用者意向調査によると"自分の仕事の内容・やりがい"について「満足している」と回答した者は9.1%、「どちらかといえば満足している」は46.3%、「不満である」と回答した者は12.7%、「どちらかといえば不満である」は31.9%である。

(参照:https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/cyousa21/net_riyousha/html/2_4_2.html)

 

都SCは仕事にやりがいを感じている割合が92%に達し、非常に高い数値である。

図22  仕事へのやりがいをどの程度感じているか

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(2)SCの仕事の専門性 

都SCは専門性の高い仕事だと思うか、という問いに「とてもそう思う」と回答した者は66%、「ややそう思う」は32%、「あまりそう思わない」「全くそう思わない」は0%である(図23)

図23  都SCは専門性の高い仕事だと思うか

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(3)都SCの収入 

いまの都SCの収入に満足しているか、という問いに36%が「とても満足している」、47%が「やや満足している」、11%が「どちらともいえない」、3%が「あまり満足していない」、2%が「全く満足していない」と回答(図24)。「とても満足している」と「やや満足している」を合わせると83%に達する。

図24 都SCの収入に満足しているか

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都SCの収入の主たる使い方を問う質問に対し、60%が「生活費の主要な部分」、28%が「生活費の補助」、8%が「貯蓄」、2%が「趣味や娯楽」と回答(図25)。

図25 都SCの収入の使い方

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(4)経験加算について

都SCの仕事は経験によって給料が上がる経験加算を導入すべきだと思うか、という問いに対し、38%が「ややそう思う」、31%が「とてもそう思う」、22%が「どちらともいえない」、7%が「あまりそう思わない」、2%が「まったくそう思わない」と回答(図26)

図26  経験加算を導入すべきか

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4 都SCの勤務形態の理想

都SCの勤務形態の理想

現在勤務している都SCが考える、今後の理想的なSCの勤務形態についての質問に対しては、72%が「現在と同じく1校につき38日勤務するが、雇用の安定性が保たれ福利厚生もある(兼業可能)」、7%が「現在と同じく会計年度職員として1校につき38日勤務する(兼業可能)」、同じく7%が「2-3校を拠点校方式の巡回で、週5日勤務する(兼業不可)」、5%が「1つの勤務校に毎日(週5日)出勤する(兼業不可)」、8%が「その他」と回答した(図27)

図27  理想の勤務形態

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自由記述より6

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5   都SCの労働条件改善に向けてのポイント

都SCの労働条件改善に向けてのポイント

一般的に、ユニオンが実施する労働実態調査の回収率は低い。しかし、本調査におけるアンケートの回収率は46%と非常に高かった。これは、都SCの労働実態調査に対する非常に強い関心を示している。調査結果から、都SCが雇用への不安や業務を遂行上、様々な疑問や困難を抱えていることが明らかになったが、それらを丁寧に聞き取り検討される機会がこれまで全く設けられなかったことが、高い回収率につながったのではないかと推測される。

仕事の要求度-コントロールモデルによると、要求度が高くコントロールも十分に与えられていると、活性水準が高まり生産性が上がり、職場での満足感が高い。一方、要求度が高いにもかかわらず十分なコントロールが与えられていない場合には、最もストレスがたまりやすいとされる。

そして、都SCも要求度(仕事量や責任)が高いが、コントロール(自由度や裁量権)が与えられていない高ストレイン群にあてはまる。SCの精神的健康を促進するために、要求度と自由度のバランスが保たれるような配慮が求められるのではないか。

(参考:厚生労働省 働く人のメンタルヘルスポータルサイト こころの耳

仕事要求度-コントロールモデル https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1698/

そこで、以下の項目について検討と改善を求めたい。

 

1【時間外の無償労働について改善】 

先述した「2 都SCのストレスの(2)ストレス要因」で最も多かったのが「時間外の無償労働」であった(図6)。また、「2 都SCのストレスの(2)ストレス要因(ア)時間外の無償労働」の項目からわかるように、回答者の80%以上が残業をしており、かつ、その中で90%が残業の調整をできていないと解答している(図7、図8)。さらに、休憩時間が確保できていない、相談室便り作成や研修会資料作成などのため、持ち帰りの仕事をしている都SCが多いことも自由記述からわかった。

任用上の労働時間外に勤務した場合は賃金が支払われなければならず、休憩時間も確保されなければならないため、現状のこのような労働実態は明確に違法であり、早急に改善されるべきである。SCの業務量や勤怠の実態を正確に把握し管理するとともに、時間外に勤務させてはならず、休憩時間も確保されなければならない。また、業務の性質上、やむを得ず規定の時間外に勤務することや、持ち帰って仕事をすることもあり得るが、そのような場合は勤務時間に応じて賃金を支給すべきである。

 

2【SC相談窓口の設置】

今回のアンケートにおいて、ストレスとなる要因の4番目に多かったのが「教職員・管理職との関係」であった。また「2 都SCのストレスの(2)ストレス要因」の(エ)では、職場で理不尽な要求、不快な対応、ハラスメントなどを受けたと感じたことはあるかという問いに対し、52%が「ない」、47%が「ある」と回答している。これらの結果から、都SCが学校現場において、教員や管理職との関係に悩むことが多く、理不尽な要求や不快な対応、ハラスメントを受けることが少なくないことが明らかにされた。

「令和2年度厚生労働省委託事業・職場のハラスメントに関する実態調査」において、「過去3年間に、パワハラ、セクハラ、および顧客からの著しい迷惑行為を一度以上経験した」者の割合はそれぞれ31.4%、10.2%、15.0%であり、それと比べても多いことがわかる。

さらに、図15・16に見られるように、都SCが理不尽な要求を受けたりハラスメントを受けた際に、相談する対象がいなかったり、相談してもほとんど改善していない実態が浮き彫りになった。

また、図18に示されたように、管理職に相談をためらう理由として、管理職に相談することで「評価に悪い影響を及ぼさないか気になる」と回答した都SCが多かった。これは、都SCの次年度の採用は校長評価で決まるシステムであるため、職を失い生活できなくなることを恐れていることに起因すると考えられる。同じ理由で採用元の都教委に対しても相談をためらうことが考えられる。

単年度の任用であり、かつ校長の評価で次年度の任用の合否が決まる現在の任用状況と、ハラスメントや理不尽な要求がある現実、また安心して相談できる相談窓口が無いという状態は、都SCが精神的に安心して働ける状態とは言えない。安全配慮義務に違反しているのみならず、労働安全衛生法や労働施策総合推進法にも違反しており、採用の合否に影響がなくSCが安心して相談できる第三者的な相談窓口の設置し、周知を徹底するように早急に改善されるべきである。

 

3【雇用の安定化(会計年度任用の問題の改善)】

現在の雇用の在り方については様々な側面から問題が浮き彫りになったが、以下の3つの点にまとめられる。

(1)雇用年限の撤廃と配置校数の安定化

アンケートにおいて、ストレス要因の2番目に多かったのが「雇用の不安定さ」(373ポイント)であった。また、図12に示された通り、雇用契約が更新されないことを「不安・やや不安」に思っている都SCは91%であった。

また、会計年度任用職員という雇用形態は都SCの業務内容や働き方に合う制度だと思うかという問いに対し、図13において示された通り、現行の会計年度任用の制度で良いと考えている都SCは2割と少なく、どちらともいえないが3割であった。約半数が、単年度雇用である会計年度任用制度は合っていないと回答している。

雇用の不安定さに対する不安感の強さを示す結果は、現在大きな社会問題になっている雇止めや女性の貧困など非正規雇用の問題と同じ結果となった。

図25で示されたように約9割の都SCが生活費のために都SCに従事している。しかし表1に示されたように、希望していないのに配置校数を減らされたことや満期6年前に異動させられたことがある都SCは13%いた。当然のことながら、すでに不合格とされて都SCの職を離れざるをえなかった人たちは今回のアンケートの対象外となったためこの数字に反映されていないことも留意したい。自由記述(自由記述2)で示した意見以外にも、配置校数が年度末近くで突然、予定外の形で減らされた(もしくは雇用を終了させられた人を知っている)などの事例やそれに伴う不安についての記載が多く見られた。このことは、実際に配置校数が突然減らされ、収入が減少するという家計への負担はもちろんのこと、精神的負担を感じている都SCがいること、また合格の採用通知が届いても、配置校数によって収入が変動するため、年度末まで次年度の収入の目処が立たないという不安感を、毎年感じている都SCが多いことがうかがえる。

上述したように、約9割の都SCが家賃や食費等の生活費のために都SCに従事している。よって、安心して生活することが保障され、専門性を発揮して仕事をできるように、都SCについても、会計年度任用職員としての雇用について見直し、雇用年限の撤廃や配置校数の安定化が求められる。

 

(2)SC評価の問題・SCの人材育成の視点

「3 都SCの仕事の満足度について(2)SCの仕事の専門性」に示されたようにほぼ全ての都SCが、SCの仕事は専門性の高い仕事であると認識している。SCの仕事は資格が必要とされ、EBP (evidence-based practice:科学的な根拠に基づいた実践)が求められる。また教育領域のみでなく、医療、保健、福祉など他領域の知識と経験、連携する力も求められる専門性の高い仕事である。多くのSCが児童・生徒のために専門性を発揮し、日々の支援に臨みたいと考え努力しているだろう。

しかし、上述したように都SCは単年度雇用の会計年度任用職員であるため、毎年校長評価によって採用・不採用が決定されている。このシステムには以下の問題がある。

 

(ア)校長評価の評価基準が不明確であり、人材育成の視点が欠けていること

校長による都SCの評価項目や評価基準は開示されていない。今回の資料に掲載した自由記述以外にもアンケートの自由記述では、校数を減らされた都SCや不合格とされた都SCが「理由を問い合わせても教えてもらえない」「これでは今後のために改善していくこともできない。」「合否基準が不明確である。」といった声が複数見られた。長期的に見たSCの人材育成という面においても現在のシステムは問題があると考えられる。職場によって多少の違いはあるであろうが、人事評価制度は本来「能力・実績に基づく人事管理を進めて行く上での基礎となる重要なツールであるとともに、人材育成の意義を有するもの」(参考:人事評価 (jinji.go.jp))であり、それは都SCにおいても同様と考えられる。評価が実施されている以上、その項目と基準を明確にし、振り返ることによって今後のSCの質の向上に生かされるべきである。

(イ)心理職の専門性は評価されにくい

都SCは学校に配属され、校長の管理下で業務を行うため、管理職が都SCの日常の勤務態度などを評価することは重要である。しかし、その評価は学校の立場から見た都SCの評価という側面のみであり、心理職の専門性の評価は含まれない。一人職場であり、同業者の管理者がいないため、都SCの日々の業務の専門性を評価することは不可能な状態である。しかし、現在の評価基準にSCにとって非常に重要な側面である心理職の専門性が含まれていないという点は留意するべきである。

(ウ)管理職の評価のみで採用・不採用が決定されること

次年度の採用の合否に不安を感じているSCがとても多い。それは上述の通り、校長評価のみで次年度の採用・不採用が決定し、かつその基準も理由も開示されないためである。また、そのシステムによる弊害がある。SCは業務上、学校の考えや方針に対して専門家として助言をする。しかし評価を意識すると、助言の内容によっては管理職の反応を気にして伝えにくいなど、専門家としての自立性・外部性が崩れ、本来の専門性が発揮しづらくなる可能性が懸念される。また、図18に示した通り、ハラスメントや理不尽な要求など悩む都SCは多いにもかかわらず、人事評価を気にして管理職に相談できないという問題も大きい。このような現状から、校長のみの評価によって合否を決める現行の方法は問題点があるのではないかと考えられる。

 

先ほどの「(1)雇用年限の撤廃と配置校数の安定化」において示した通り、都SCの現在の単年度雇用の在り方については見直されるべきであり、雇用年限の撤廃や配置校数の安定化が求められるところである。それと同時に、不明確であり、専門性が含まれず、更に人材育成の視点に欠け、単に合否判定のツールとなっている現在の評価システムの問題も改善が求められる。雇用の安定化と評価システムの適正運用は相互に関連するのではないだろうか。例えば一定の年限、安定した勤務をした場合は無期雇用(非常勤であるが雇用年限が無い)に転換する、評価の内容の開示及び説明をする、評価の面で問題があった場合は、雇止めや配置校数減の前に、その評価内容についての説明や、育成的な観点で話し合いの場を設けるなどの対応が望まれるのではないだろうか。

 

(3)合否通知・配置校通知の時期の改善

(2)ストレス要因の(イ)雇用の不安定さの表1に示されるように、希望していないのに配置校を減らされたことや、6年の満期に至る前に異動させられたことなどはありますかという問いに対し13%が「ある」と回答した。(当然のことながら、不合格になり退職した都SCはアンケートに関わっていないため、数値に反映されていない。)

現在、配置校と配置校数の決定通知は3月中旬である(2021年は3月22日、2022年は3月15日頃)。年度内の勤務がすべて終了した後に異動を命じられたり、配置校数を意に反して減らされたりする現状がある。しかし、意に反して配属校数を減らすことはSCにとって賃金が減少することになるため、明らかに労働条件の不利益変更に該当し、SC本人の同意なく行うことは違法である。また、雇止めの予告は契約満了前の30日前までにしなければならないとされている民間企業の契約社員と比べて著しく不公平であると言わざるを得ない。とりわけ、配属校数を意に反して減らされることは、実質的には減らされた配属校との関係では雇止めと同視できる。 

3月は一般的には4月からの就職活動を始めようとしてもすでに終わっている時期であり、配置校数を減らされた場合は4月からの生活に困窮する。合否決定の通知も1月下旬と遅めである。新規で受験する場合は、合否判断に時間を要するためでもあるかもしれないが、何年も継続して勤務してきて1月下旬まで合否が分からない、3月中旬まで校数が分からない、意に反して4月から校数を減らされ減収、生活に困窮する恐れがある、という現状である。今回の資料に掲載した自由記述(自由記述2)以外にアンケートの自由記述には「配置校数を減らされて生活に大変困った」「時期的に就活もできなかった」「減らされた理由を教えてもらえないため改善のしようがない」「生活も精神的にも非常に苦しい」といった記述が複数あった。また「決定時期が他の職場と比べて著しく遅いために他の職場との関係で困る」という意見も複数見られた。

他にも、年度末になると相談に来ている保護者から「先生は来年もいらっしゃるんですよね?」と聞かれることが多いが答えられなくて相談者を不安にさせてしまう、という記述もあった。都SCの次年度の配置校数や配置校の決定が3月末(中旬)までわからないということは、SC自身の生活にかかわる問題だけでなく、相談に来ている保護者や生徒児童、教員にも不安や戸惑いを与える問題である。このことはSCの業務の性質上大きな問題である。

合格通知の時期、配置校数と配置校の通知の時期を全体的に早めることが望まれる。

 

4【社会保障】

都SCのストレス要因として3番目に多く選ばれたのは「社会保障がないこと」(341ポイント)であった。今回の調査では以下の側面から社会保障の問題が浮き彫りになった。

 

(1)健康健診の無料化

図14で示した通り、76%の都SCが健康診断を自治体負担では受けていない。結核検診は都教委から必ず受けるように指示されており、学校安全保健法上も推奨されていることから、SCも自治体の費用負担で健康診断を受けることができるように講ずるべきであり、同じ都SCであっても配置された自治体によって無料で健康診断を受けられるところと受けられないところがあるのは労働基準法で使用者に義務付けられる均等待遇に反し、違法である。何らかの形で全員が無料で受けられるように改善を要望する。

 

(2)連絡会の在り方について

また休暇制度の部分で明らかになったのが、図19で示した通り、SC連絡会に出席するために他の仕事を休んだことがあるかを問う質問では58%が休んだことがあると回答し、その際どのように調整を行ったかを問う質問では、その日の他の仕事を休み収入がなくなった都SCは116ポイント(24%)であった(図20)。SC連絡会のために他の職場の勤務日を変更したり有休を使ったりして対応したのは159ポイント(73%)であった。SC連絡会出席のために他の仕事を休まなければならず、それに対する補償が無いことも問題であると考えられた。

「1 今回のアンケートに回答した都SC基本属性」により93%のSCが兼業をしており、二か所、三か所以上の兼業をしている都SCが60%以上いると示された。都SCが非常勤心理職をかけもちしている性質上、学校以外の職場の次年度の予定は前年度の12月、1月、2月までにすでに決定していることが多く、変更も難しいことが多い。また現在、SC連絡会の開催日時は新年度が始まってから通知が来るが、心理職個人が連絡会出席のために他の仕事を欠勤すれば済むという問題ではなく、相談者がすでに次年度の相談予約のために予定を組んでおり(相談者も仕事等の予定を調整している)、SC連絡会出席のために相談者にも多大な迷惑をかけてしまっている。また他の職場の年間の事業運営にも迷惑をかけてしまっている、という現状がある。

多くの都SCが兼業している実態があるため、連絡会の開催方法を検討していただくことが望まれる(動画配信開催など)。

    

 

(3)ライフイベントと雇用

図21にある通り「妊娠出産子育ては働き続けるうえで障害になると思うか」という問いに対し「とてもそう思う」が45%、「ややそう思う」が34%であり、障害になると感じている都SCが79%であった。現在、会計年度任用職員になり出産後復職できるようになったが、期間も短く育児休暇が無い。心理職の性質上、難しさもあると思われるが、今後も改善が望まれる。

また(2)ストレス要因の(ウ)社会保障の自由記述(自由記述3)に見られる通り、社会保障が無いため病気、将来に不安を抱える切実な声がたくさん寄せられた。都SCは非常勤職員ではあるが、子育て・ケガ・病気・介護など様々なライフイベントがあっても安心して働き続けられる社会保障が求められる。

 

5【現場のSCの声を今後のスクールカウンセラー活用事業に反映する】

今後も都SCとして勤務する場合の理想の勤務形態について、72%が「現在と同じく1校につき38日勤務するが、雇用の安定性が保たれ福利厚生もある(兼業可能)」、7%が「現在と同じく会計年度職員として1校につき38日勤務する(兼業可能)」、同じく7%が「2-3校を拠点校方式の巡回で、週5日勤務する(兼業不可)」、5%が「1つの勤務校に毎日(週5日)出勤する(兼業不可)」、8%が「その他」と回答した(図27)。自由記述においても、働き方や外部性の確保という点から、常勤化に対する不安やリスクに関するコメントが見られた(自由記述6)。

 しかしながら、公認心理師を調査対象とした、厚生労働省令和 年度障害者総合福祉推進事業「公認心理師の活動状況等に関する調査」においては、幼小中高等学校スクールカウンセラー(自治体・教育委員会雇用もしくは直接雇用・契約等)をしている 人を対象とした「スクールカウンセラーが今後常勤化された場合に、常勤での勤務を希望するかについて」という質問項目に対し、「希望する」が約44%、「分からない」が約29%、「希望しない」が約27%で あり、「希望する」が全体の4割強を占めるという結果が示されている。また、教育相談等に関する調査研究協力者会議による「児童生徒の相談の充実について~学校の教育力を高める組織的な教育相談体制作り~」においては、「最終的には、全ての必要な学校、教育委員会及び教育支援センターに常勤のを配置できることを目指すことが適切である。」という提言がなされている。

上述したSC常勤化の流れに対し、今回のアンケート調査は大きく異なる結果となったが、これが現在、現場で働くSCの思いであると考える。多くのSCが理想の勤務形態として、常勤を選ばなかったのはなぜなのか。さまざまな職域を経験し、研鑽を積もうとする心理職のキャリア形成上の志向が、この選択の背景として考えられる。さらに、外部性を保ちつつも学校において専門性を提供し、児童生徒・教員・保護者に対し最大限の貢献ができるSCでいるために、非常勤であることを望んでいるものと思われる。裏返せば、常勤になることで、現在のような貢献ができなくなるという危惧があると推測される。常勤化については、くれぐれも慎重に十分な議論を重ねる必要があるのではないか。今後のSCの勤務形態について、現場で実際に働くSCの要望を踏まえたうえでの制度設計が望まれるところである。

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